USPTOの継続出願料金新設がバイオ特許実務に与える影響

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新制度の概要

2025年1月19日から、USPTOは最早優先日から6年以上経過後に出願される継続出願に対して追加料金を課す新制度を施行しました。この継続出願料金(CAF: Continuation Application Fee)は、6年超で$2,700(大企業)、9年超で$4,000(大企業)となり、Small Entityには60%の減額が適用されます[1][2]。

バイオテクノロジー分野が最も深刻な影響を受ける理由

この新料金制度は表向き技術分野中立をうたっていますが、実際のデータはバイオ分野への影響が大きいです。

Art Unit 1600の審査遅延の実態

バイオテクノロジーを担当するArt Unit 1600は、全アートユニット中で最長の審査期間(28.5ヶ月)を記録しており、2009年の22.5ヶ月から6ヶ月増加、特に過去5年間で15.2ヶ月も延びています。さらに、Art Unit 1600は審査官数が最少で、許可件数も最低水準にあります[3][4]。

PCT出願の複合的リスク

バイオベンチャーにとって特に深刻なのは、PCT出願経由の国内段階移行における時間的制約です。PCT出願として18ヶ月経過後、米国国内段階に移行し、その後3年以上の審査期間を経て最初の発明が許可される頃には、分割出願や継続出願の提出時に6年の期限を超えてしまう可能性が高くなります[4]。

実務上の重大リスク:優先権の無通知喪失

この新制度の最も危険な側面は、料金未払いによる優先権喪失のメカニズムです。

従来、バイオ分野の実務は「no fee continuation」という戦略を使うことがあり、出願時には料金を支払わず、Notice to File Missing Partsへの応答時に料金を支払うことで費用を後回しにしていました。しかし、新制度ではこの戦略が機能しなくなりました[4]。

料金未払いのまま継続出願を行った場合、優先権主張が自動的に喪失する可能性があり、しかもUSPTOからの明示的な通知はありません。出願後4ヶ月以内にCAFを支払わなければ、完全な優先権主張を回復できなくなります[4]。

日本のバイオベンチャー・大学TLOへの実務的影響

予算計画への影響

Small Entity資格を持つ日本のバイオベンチャーでも、6年超の継続出願には$1,080、9年超には$1,600の追加費用が発生します。複数の継続出願戦略を採用している場合、特許ファミリー全体でのコスト増加は無視できない規模となります。

抗体医薬・細胞治療分野の特有の課題

抗体医薬や細胞治療のような技術では、商業化まで10年以上かかることも珍しくありません。さらに、USPTOの限定要求(Restriction Requirement)により、複数の分割出願が必要になることが多く、追加料金の発生リスクが高まります[1]。

戦略的対応策

  1. 柔軟なタイムライン管理

6年または9年到達前に継続出願を行うことで、追加料金を回避できます。特に6年に近づいている特許ファミリーでは、親出願の許可通知を待つよりも、早期に継続出願を行う方がコスト効率的な場合があります[1]。

2. 早期審査制度の積極活用

審査の遅延が問題となっているArt Unitでは、特許審査ハイウェイ(PPH)などの早期審査機会を活用し、6年になる前に許可を得て必要な継続出願を行うことを検討すべきです[5]。

3. 出願戦略の再設計

異なる実施形態をカバーするクレームを並行して出願し、複数の審査官やアートユニットに割り当てられるようにすることで、より効率的な権利化が可能になる場合があります[1]。

4. 料金支払いの確実な実施

「no fee continuation」戦略はもはや使えません。CAFが必要な継続出願では、出願時に全額を支払うか、最長でも4ヶ月以内に確実に支払いを完了する必要があります

結論

USPTOの新継続出願料金制度は、表面上は技術分野中立を謳っていますが、長期の審査期間と継続出願戦略への依存度が高いバイオテクノロジー分野に影響を与えています。特に重要なのは、優先権喪失のリスクを回避するための厳格なタイムライン管理と、早期審査制度の戦略的活用です。この新制度に適応できるかどうかが、米国でのバイオ特許戦略の成否を分けることになるでしょう。


参考文献

[1] IPWatchdog (2025年1月9日). “New USPTO Fee Rule for Continuing Applications: Key Changes and Strategic Considerations for Applicants” https://ipwatchdog.com/2025/01/08/new-uspto-fee-rule-continuing-applications-key-changes-strategic-considerations-applicants/

[2] National Law Review. “USPTO Raises Continuation Application Fees Effective Jan 2025” https://natlawreview.com/article/uspto-takes-hint-european-practice-addressing-late-continuation-concerns

[3] Mondaq (2週間前). “New Continuation Fee Among 2025 USPTO Changes Impacting Biotech” https://www.mondaq.com/unitedstates/trademark/1704912/new-continuation-fee-among-2025-uspto-changes-impacting-biotech

[4] National Law Review. “USPTO Continuation Fee Poses Risks for Biotech Applicants” https://natlawreview.com/article/new-continuation-fee-among-2025-uspto-changes-impacting-biotech

[5] Marshall IP (2024年7月10日). “USPTO | New 5-Year & 8-Year Continuing Application Fees” https://www.marshallip.com/insights/uspto-proposes-new-5-year-8-year-continuing-application-fees/

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